『味』来予知
毎週金曜日のお楽しみ、になっていますか?
来週も何か小説を更新しようと思いますので、楽しみにしていてください。
(ハードル上げ中)
来週も何か小説を更新しようと思いますので、楽しみにしていてください。
(ハードル上げ中)
俺の名前は関輝石(せききせき)。
未来予知の超能力者だ。
といっても、劇的なドラマは今まで起きたことがない。
俺は未来予知を出来るが、未来を見ることはできず、未来が聞こえるわけでもない。俺にできるのは未来を味わうことだ。
ある朝、口の中に妙な味が広がっていた。
奇妙に思いながらも食卓に起きていくと、日曜日だからと父親が朝食を作っていた。人生で初めて飲む母の作る味噌汁とは違う味噌汁だった。
その味を、俺は前夜の内に味わっていた。
それが他人には出来ない能力であることに気が付いたのは小学生になり、給食のメニューが変更になったことをクラスメイトたちに伝えたときだった。
煮魚からハンバーグに変更になったことを話しても冗談だとしか思われず、教師たちの話を聞いたのだろうと纏められた。
能力を自慢したいわけじゃなかったし、俺はただ学友たちと一緒に予期せぬハンバーグ。
「すごいね、関くん! どうやったの!?」
ひとりだけ、クラスメイトの蒼子は興味を持ったようだった。
「ああ、俺って…超能力者だから」
ちょっとカッコつけた俺だったが、ハンバーグのケチャップソースが口に付いていた。
初めて能力を見せてから十年。
高校生になってからもこの超能力は消えない。
厳密には味だけでなく、匂いも感じているが食事に係わることだけらしい。
帰宅途中で夕食を食べ終えているような気分になるが、やはり味だけで腹が減る。今日の夕飯はカレーライス、母さんはまた福神漬けを忘れたみたいだな。
「…じゃあ、買っていく?」
蒼子は小学生から変わらない素直な思いを口にした。俺はと云えば…マヌケな顔をしていたと思う。
「思いつかなかった。そっか。買っていけば良いんだ」
ちょうど目の前にはスーパーマーケット。渡りに船。
「…売り切れ? 福神漬けが売り切れるなんてことがあるんですか?」
「テレビで健康にいいとかやっていた覚えはないが、申し訳ない」
売り場のパートさんも訝しげ。
他の家でも偶然カレーを多く作る日であるということか?
「不思議だな。まあ、いいか…」
「良くないよ! 関くん! 向こうに行けばコンビニあるよ!」
「いや、コンビニに置いているのか? 福神漬けって?」
「置いてるところもあるよ! こっちに行けばエイトとローリン、あとサンクルあるから一件くらいあるよ!」
ありゃしない。
最初から置いていないという店も有れば、いくつか入荷していたが全て売り切れた、という店も有った。
「…しょうがないか」
「しょうがあるよ! いや、福神漬けあるよ! 私の家、一昨日がカレーだったから福神漬けあったから!
「これからお前の家に行くのか?」
「ちょっと遠回りだけど、寄っていって!」
…こいつの自宅って、行くのは小学生のころ以来だ。
少しばかり、別の緊張感が有った。
もちろん無かった。
蒼子のお母さんが今日の弁当の混ぜご飯に使っていたらしい。
…というか、蒼子、さっき一緒に昼飯食べたとき、自分で食べていたことを忘れていたのか?
せっかくだから夕食を食べていくか? と誘われたが、いきなり家に上がり込んでおいて食べていくだけの根性はない。
「ゴメンね、運命には逆らえないみたい!」
蒼子は既に夕食のマカロニグラタンを頬張っていた。そんな蒼子の顔を見て、俺はこの無駄な散歩に満足していた。俺は別に福神漬けなんて要らないし、蒼子が納得したならそれでいい。
「ただいま、母さん、今日、カレーだよね?」
「匂いで分かったの? 手を洗ってからね」
「福神漬け、買ったの」
「…あれ? 忘れちゃったかなー。ゴメンね」
「いいよ、別に」
荷物を置いた瞬間、テレビでは交通事故のニュース。
運転を誤って歩道にダンプが突っ込んだというもので、時間は三〇分ほど前。
もしも、蒼子がまっすぐ帰っていたら、ちょうど目撃していたか、巻き込まれていたかもしれない。ふと、そう思った。
ある夏の朝。
奇妙な舌触りに俺は気分よく目を覚ました。
だが、その感触が不自然であることに気が付き、今日の日付と予定をカレンダーで確認した。
今日は蒼子と一緒に海に行く予定を入れていたが、お互いにそれがデートと呼ぶのがこそばゆかった。
ただ異性の友達とふたりで遊びに行くだけ。それが心地よかった。
「…やっぱりやめるか、海」
「って、えええええ!? ちょっと、関くん!? あたし準備万端なんだけど!?」
駅前で会った蒼子は麦わら帽子に浮き輪を付けるという気の早い恰好。こいつ、高校生にもなって浮き輪持参なのか。
これを付けて水着で泳ぐ蒼子を想像し、俺は強い危機感を抱いた…はずだ。
「…ねえ、何ニヤけてるの?」
「ニヤけてなんていない。泳ぎは今度教えてやるよ、プールとかで」
「意味分かんないんだけど」
「今日は映画でも見に行こう。昨日調べたら今日までしかやってない映画がちょうどあったんだよ」
「…ちょうど?」
ニュアンスを間違えたが、訂正するのも不自然だろう。
蒼子には気付かれてはいけないのだから。
「チケットはもう買っている。どうだ?」
「関くんってそんな強引なキャラだっけ」
「…どうだ?」
切羽詰まっている自覚はある。
もし、ここで蒼子に断られたらどうしようという気持ちが有った。大変なことになってしまう。
「しょうがないなあ、もう、ポップコーンくらい奢ってね」
「すまんな、付き合ってくれ」
ポップコーンは売り切れてはいなかったが、俺は食べなかった。
予知で食べていないということは、俺が食べようとすれば何か妨害…例えばスプリンクラーが故障して水浸しになったり、地震が起きてポップコーンを落としたり…何らかのアクシデントが発生するだろう。
この前の福神漬けで気が付いたが、俺の予知能力は決して変えることができないと納得した。
つまり、下手に予知に符合しない行動を取れば、別の問題が発生することが有る。
今日は朝食の目玉焼きの次は冷たいコーラとなり、次に『問題の塩味』が発生することになっている。
俺はポップコーンを食べる予知を見ていない。ならば食べようとしない方が良い。
見た映画はどこかで見たような恋愛映画だった。
内容はあまり覚えていない。映画を見て一喜一憂する蒼子を見ている方が面白かった。昨夜の予知のことを忘れるほどに俺は穏やかな気分になり、帰りに寄った公園で自分の考えを纏め、その言葉を口にした。
「好きだな、蒼子のこと」
蒼子は一瞬動きを止め、何食わぬ顔で…というか、何食わぬ顔を装っているのがわかった。
「えっと、うん、それでしょ。関くんは私も好きっていうか、幼馴染っていうか友達っていうか、友達っていっても…」
「来週の日曜、今度こそ海に行こうぜ。デートってことで」
一瞬、蒼子が視界から消えて次の瞬間、俺の視界一杯に蒼子の顔が広がった。
俺は一瞬の出来事に考える間もなく押し倒され、蒼子に唇を奪われていた。
さっきの映画で時が止まればいいという例えを使っていたが、時間以前に心臓が止まりそうだ。
俺の心臓もだが、触れている蒼子の鼓動が早すぎて危機感を覚える。止まったら海行きを中止した意味がなくなる。
何秒くらい経ったのか、蒼子の方から離れた。
「ゴメン、奪っちゃた…」
「…それはいいが、さっき、何食べた?」
「ポップコーンでしょ、塩味。関くんが食べないって言うから一人で食べたでしょ?」
「…なるほど。それで…」
ファーストキスがレモン味だとは思っていないが、予知で見た塩味だった真相はこれだった。
俺の予知では奇妙な感触と蒼子の匂いが同時に感じた。
「…ん? ちょっと待て? もしかして関くん、キスのこともう予知してた?」
「ああ、朝飯のあと…コーラを飲んで、そこから塩味のキスがあった」
一気に赤くなる蒼子。自分のしたことが今になって思い出してきたらしい。
周囲の目が気になりだしたのか、組んだ腕に顔をうずめるようにして歩いている最中、蒼子も気が付いたらしい。
「…え、って、塩味のキスって…もしかして…」
「さっき持ってきていた浮き輪な、ビニールが劣化してたぞ? 萎めるときに変な音がしてたからな」
「…来週のデート、海じゃなくてプールにしようよ」
「俺もそれが良いと思う。足の付くところがいいだろうしな」
人工呼吸でもファーストキスと言っていいのだろうか、そう考えつつ、俺は蒼子と一緒に食べるために、予知で食べた最高に美味いピザ屋を探していた。
翌日から俺は予知ができなくなった。
幸か不幸か、変わらない未来は無くなったらしい。
未来予知の超能力者だ。
といっても、劇的なドラマは今まで起きたことがない。
俺は未来予知を出来るが、未来を見ることはできず、未来が聞こえるわけでもない。俺にできるのは未来を味わうことだ。
ある朝、口の中に妙な味が広がっていた。
奇妙に思いながらも食卓に起きていくと、日曜日だからと父親が朝食を作っていた。人生で初めて飲む母の作る味噌汁とは違う味噌汁だった。
その味を、俺は前夜の内に味わっていた。
それが他人には出来ない能力であることに気が付いたのは小学生になり、給食のメニューが変更になったことをクラスメイトたちに伝えたときだった。
煮魚からハンバーグに変更になったことを話しても冗談だとしか思われず、教師たちの話を聞いたのだろうと纏められた。
能力を自慢したいわけじゃなかったし、俺はただ学友たちと一緒に予期せぬハンバーグ。
「すごいね、関くん! どうやったの!?」
ひとりだけ、クラスメイトの蒼子は興味を持ったようだった。
「ああ、俺って…超能力者だから」
ちょっとカッコつけた俺だったが、ハンバーグのケチャップソースが口に付いていた。
初めて能力を見せてから十年。
高校生になってからもこの超能力は消えない。
厳密には味だけでなく、匂いも感じているが食事に係わることだけらしい。
帰宅途中で夕食を食べ終えているような気分になるが、やはり味だけで腹が減る。今日の夕飯はカレーライス、母さんはまた福神漬けを忘れたみたいだな。
「…じゃあ、買っていく?」
蒼子は小学生から変わらない素直な思いを口にした。俺はと云えば…マヌケな顔をしていたと思う。
「思いつかなかった。そっか。買っていけば良いんだ」
ちょうど目の前にはスーパーマーケット。渡りに船。
「…売り切れ? 福神漬けが売り切れるなんてことがあるんですか?」
「テレビで健康にいいとかやっていた覚えはないが、申し訳ない」
売り場のパートさんも訝しげ。
他の家でも偶然カレーを多く作る日であるということか?
「不思議だな。まあ、いいか…」
「良くないよ! 関くん! 向こうに行けばコンビニあるよ!」
「いや、コンビニに置いているのか? 福神漬けって?」
「置いてるところもあるよ! こっちに行けばエイトとローリン、あとサンクルあるから一件くらいあるよ!」
ありゃしない。
最初から置いていないという店も有れば、いくつか入荷していたが全て売り切れた、という店も有った。
「…しょうがないか」
「しょうがあるよ! いや、福神漬けあるよ! 私の家、一昨日がカレーだったから福神漬けあったから!
「これからお前の家に行くのか?」
「ちょっと遠回りだけど、寄っていって!」
…こいつの自宅って、行くのは小学生のころ以来だ。
少しばかり、別の緊張感が有った。
もちろん無かった。
蒼子のお母さんが今日の弁当の混ぜご飯に使っていたらしい。
…というか、蒼子、さっき一緒に昼飯食べたとき、自分で食べていたことを忘れていたのか?
せっかくだから夕食を食べていくか? と誘われたが、いきなり家に上がり込んでおいて食べていくだけの根性はない。
「ゴメンね、運命には逆らえないみたい!」
蒼子は既に夕食のマカロニグラタンを頬張っていた。そんな蒼子の顔を見て、俺はこの無駄な散歩に満足していた。俺は別に福神漬けなんて要らないし、蒼子が納得したならそれでいい。
「ただいま、母さん、今日、カレーだよね?」
「匂いで分かったの? 手を洗ってからね」
「福神漬け、買ったの」
「…あれ? 忘れちゃったかなー。ゴメンね」
「いいよ、別に」
荷物を置いた瞬間、テレビでは交通事故のニュース。
運転を誤って歩道にダンプが突っ込んだというもので、時間は三〇分ほど前。
もしも、蒼子がまっすぐ帰っていたら、ちょうど目撃していたか、巻き込まれていたかもしれない。ふと、そう思った。
ある夏の朝。
奇妙な舌触りに俺は気分よく目を覚ました。
だが、その感触が不自然であることに気が付き、今日の日付と予定をカレンダーで確認した。
今日は蒼子と一緒に海に行く予定を入れていたが、お互いにそれがデートと呼ぶのがこそばゆかった。
ただ異性の友達とふたりで遊びに行くだけ。それが心地よかった。
「…やっぱりやめるか、海」
「って、えええええ!? ちょっと、関くん!? あたし準備万端なんだけど!?」
駅前で会った蒼子は麦わら帽子に浮き輪を付けるという気の早い恰好。こいつ、高校生にもなって浮き輪持参なのか。
これを付けて水着で泳ぐ蒼子を想像し、俺は強い危機感を抱いた…はずだ。
「…ねえ、何ニヤけてるの?」
「ニヤけてなんていない。泳ぎは今度教えてやるよ、プールとかで」
「意味分かんないんだけど」
「今日は映画でも見に行こう。昨日調べたら今日までしかやってない映画がちょうどあったんだよ」
「…ちょうど?」
ニュアンスを間違えたが、訂正するのも不自然だろう。
蒼子には気付かれてはいけないのだから。
「チケットはもう買っている。どうだ?」
「関くんってそんな強引なキャラだっけ」
「…どうだ?」
切羽詰まっている自覚はある。
もし、ここで蒼子に断られたらどうしようという気持ちが有った。大変なことになってしまう。
「しょうがないなあ、もう、ポップコーンくらい奢ってね」
「すまんな、付き合ってくれ」
ポップコーンは売り切れてはいなかったが、俺は食べなかった。
予知で食べていないということは、俺が食べようとすれば何か妨害…例えばスプリンクラーが故障して水浸しになったり、地震が起きてポップコーンを落としたり…何らかのアクシデントが発生するだろう。
この前の福神漬けで気が付いたが、俺の予知能力は決して変えることができないと納得した。
つまり、下手に予知に符合しない行動を取れば、別の問題が発生することが有る。
今日は朝食の目玉焼きの次は冷たいコーラとなり、次に『問題の塩味』が発生することになっている。
俺はポップコーンを食べる予知を見ていない。ならば食べようとしない方が良い。
見た映画はどこかで見たような恋愛映画だった。
内容はあまり覚えていない。映画を見て一喜一憂する蒼子を見ている方が面白かった。昨夜の予知のことを忘れるほどに俺は穏やかな気分になり、帰りに寄った公園で自分の考えを纏め、その言葉を口にした。
「好きだな、蒼子のこと」
蒼子は一瞬動きを止め、何食わぬ顔で…というか、何食わぬ顔を装っているのがわかった。
「えっと、うん、それでしょ。関くんは私も好きっていうか、幼馴染っていうか友達っていうか、友達っていっても…」
「来週の日曜、今度こそ海に行こうぜ。デートってことで」
一瞬、蒼子が視界から消えて次の瞬間、俺の視界一杯に蒼子の顔が広がった。
俺は一瞬の出来事に考える間もなく押し倒され、蒼子に唇を奪われていた。
さっきの映画で時が止まればいいという例えを使っていたが、時間以前に心臓が止まりそうだ。
俺の心臓もだが、触れている蒼子の鼓動が早すぎて危機感を覚える。止まったら海行きを中止した意味がなくなる。
何秒くらい経ったのか、蒼子の方から離れた。
「ゴメン、奪っちゃた…」
「…それはいいが、さっき、何食べた?」
「ポップコーンでしょ、塩味。関くんが食べないって言うから一人で食べたでしょ?」
「…なるほど。それで…」
ファーストキスがレモン味だとは思っていないが、予知で見た塩味だった真相はこれだった。
俺の予知では奇妙な感触と蒼子の匂いが同時に感じた。
「…ん? ちょっと待て? もしかして関くん、キスのこともう予知してた?」
「ああ、朝飯のあと…コーラを飲んで、そこから塩味のキスがあった」
一気に赤くなる蒼子。自分のしたことが今になって思い出してきたらしい。
周囲の目が気になりだしたのか、組んだ腕に顔をうずめるようにして歩いている最中、蒼子も気が付いたらしい。
「…え、って、塩味のキスって…もしかして…」
「さっき持ってきていた浮き輪な、ビニールが劣化してたぞ? 萎めるときに変な音がしてたからな」
「…来週のデート、海じゃなくてプールにしようよ」
「俺もそれが良いと思う。足の付くところがいいだろうしな」
人工呼吸でもファーストキスと言っていいのだろうか、そう考えつつ、俺は蒼子と一緒に食べるために、予知で食べた最高に美味いピザ屋を探していた。
翌日から俺は予知ができなくなった。
幸か不幸か、変わらない未来は無くなったらしい。
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