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童話「井の中の蛙、大海の広さを知らず。されど」

 小説書きをしていて、初めてベロを絡ませました。カエル同士で。
 舌は絡まるけど、全年齢向け。そして実はある仮面ライダーが話のモチーフになっています。
 多分、観る人が観れば一撃だと思いますが、分からなくても全く支障はありません。
 井の中の蛙という言葉ありますが、この蛙は何蛙だったのでしょう。
 猛毒を持つヤドクガエルでしょうか、この井戸水を飲んだら死んでしまいますね。
 ヒキガエルでしょうか、ウシガエルでしょうか? アカガエルかもしれませんが、アオガエルということにしておきましょう。

 では、大海に住んでいる蛙がいるとしたら何蛙でしょうか。
 こちらは簡単。海辺に住んでいる蛙はカニクイガエルだけしかいません。
 今日するお話は、アオガエルとカニクイガエルのお話です。



 井の中のアオガエルは幸せでした。
 アオガエルは狭い井戸の中で、井戸の周りに付いている苔を食べていました。
 お腹一杯食べることはできなくても、お腹が減ることもありません。
 井戸の底から見上げる空が大好きで、清々しい青から照り付けるような陽の光。徐々に茜に染まっていき、最後は星の光。
 毎日少しずつ変わっていくお月様。「世界ってキレイだなあ」



 海に住むカニクイガエルは幸せでは有りませんでした。
 カニクイガエルは広い海で大きく成長し、小さなカニをお腹一杯食べていても、もっともっと食べたくなってしまいます。
 空を見ても海を見ても、何も面白くもない。毎日変わらず世界には食べ物が溢れている。
 食べて眠って世界中で何十万年も続いてご愁傷様。「世界ってつまらないなァ」




 ある日、アオガエルは思いました。

 井戸の中だけでもこれだけ素晴らしいこの世界。

 きっとこの外にはもっと素晴らしい世界が広がっているんだろう。

 一〇メートルの井戸、必死になってアオガエルは一日に三メートル登りましたが、寝ている間に二メートル落ちてしましまいます。

 それでも、アオガエルは諦めずに登っていきます。

 落ちては登り、登っては落ち、それでも諦めずに登っていきます。

 アオガエルは一日に一メートルしか登れないことに気が付きましたが、なんと十日掛からず、八日で登り切ることが出来ました。

 アオガエルはそれもまた、世界の素晴らしさだと思いました。

 登り切ったアオガエルは力強く歩き出し、世界を見ました。

 「世界はとっても広いんだなァ」


 アオガエルが地面を這っていくとトノサマバッタに出会いました。トノサマバッタはビックリしたように云いました。

 「やめるのじゃ、拙者を食べるでない」

 「食べません。虫は食べたことが無いんです」

 「蛙なのに?」

 「変ですか?」

 変すぎるアオガエルをトノサマバッタは面白いと思いました。

 「アオガエルよ、そちはどこに行くのじゃ?」

 「どこに行くか分からないので、旅をしています」

 バッタさんは不思議そうです。

 「分からないので旅をしている?」

 「オススメの終わり方は有りますか?」

 「苦しゅうない、海を目指すのじゃ。とても大きく、キレイな場所じゃ」

 「どのくらいキレイなんですか?」

 「そうじゃのう、空と同じくらいじゃ」

 カエルはビックリしました。空と同じくらいキレイな物を見たことが無いからです。
 トノサマガエルと別れ、ピョンピョン跳ねると、アオガエルはとある町の入り口でトラ猫に出会いました。


 トラ猫は言いました。「退屈だからお前で遊ぶことにする」 トラ猫は小さな動物で遊ぶのが大好きでした。

 アオガエルはキラキラした目で言いました。「退屈だったら、あなたの話を聞かせて下さい」

 「俺の話? どうして俺の話が聞きたいんだ?」

 「私はあなたの様な毛並みのある動物を始めてみました。あなたはどうしてそんな柄になったのですか?」

 「俺は生まれたときからこの柄だ」

 「それは素晴らしい。あなたの兄弟もそんな素敵な柄なんですか?」

 「冗談じゃない。きょうだいたちは俺とは違うキレイな白猫だ。俺だけこんな締まらない柄だ」

 トラ猫は、思わず自分の話を始めていました。自分は兄弟たちと仲良くできずに苦労した話、世界中を旅した話、ひと夏の恋の話。

 その猫の話を聞きながら、アオガエルは驚き、笑い、泣いていました。トラ猫の話が終わったとき、日が暮れていました。

 「…もう日が暮れる。お前で遊ぶ時間はないようだ」

 「そうですか、残念です」

 「だからこれをやる、遊ぼうと思ってたが要らなくなった」トラ猫の差し出したのは小さなサクランボでした。アオガエルはムシャムシャと食べ始めました。

 「ありがとうございました。お話にゴハンまで」

 「こっちも、話を聞いてもらったのは初めてだったからな。退屈しなかったぜ」

 アオガエルはヒョコヒョコと楽しく旅を続けます。アオガエルが海を目指して歩いていると、イヌワシに出合いました。

 「儂はイヌワシ。来季はAクラス。野球さ観てえ」

 イヌワシはよくわからないことを云いながらアオガエルの隣に来ました。

 「おめの目さ欲しんだ。キラキラしてて宝石みたいだべ?」

 「この目はあげられません。私は海が観たいんです」

 「海? なして海が観たいん?」

 「トノサマバッタさんがキレイだと云っていました。私はトラ猫さんのように旅がしたいんです」

 「そうか。んでもおめさの足では何日も掛かっぞ? 儂が乗せてやっか?」

 「良いんですか?」

 「ええぞ~。来季までヒマっこしてたっけ。来季はペナントレース優勝すっから。東北へもっかい優勝旗さ来る前祝いだべさ」

 やはり、よくわからないことを云いながら、儂さんはアオガエルを乗せて飛んでくれました。

 「鷲さんはいつもはどんなところへ?」

 「仙台、んだどもシーズン中は北は北海道、南は福岡まで行くべや」

 「どっちも行ったことがありません。良い所ですか?」

 「ドームだから入れてくれねんだァ」

 イヌワシの思い出話に時間はあっという間に過ぎていき、アオガエルが空中遊泳を楽しむ間もなく、海に到着しました。

 「そったら帰っときは、『アツクナレシマモトヒロ』て叫べ。大声でな。来季も残留してくれる感謝さ込めてな」

 完全に意味の分からないことを云いながら、イヌワシは飛び去りました。

 なにはともあれ、アオガエルは海に到着し、そのスケールに大きな瞳から大粒の涙を流しました。
 どこまで広がる水平線。嬉しいのか、悲しいのか、小さな胸の奥から湧き出してくるように涙が止まりません。

 「空と同じ青だ。なんてキレイなんだろう」

 そんなとき、カニクイガエルがやってきました。

 「なんだ? 青くて汚い疲れ切った蛙だな」

 アオガエルは自分以外に初めて蛙を見ました。嬉しそうにピョンピョンと跳ねて行きます。

 「こんにちは。私はアオガエルです。あなたは?」

 「僕はカニクイガエルだ。お前はどこから来たんだ?」

 「私は素晴らしい井戸から来ました」

 「素晴らしい井戸?」

 「キレイな空気、キレイな水、静かで素晴らしいところです。途中、素敵なタカ・トラ・バッタさんに出会い、良い旅でした」

 アオガエルは今までの旅を楽しそうに話していきました。
 今まで旅や冒険をしたことがなく、人生に退屈していたカニクイガエルは、興味深そうにしていました。

 「ほおー、それは面白そうだ。君のような小さくてみすぼらしい蛙にできるようなら僕も旅をしてみよう」

 そこにもう一匹のカニクイガエルがやってきました。どうやらメスのようです。

 「カニタさん、お客さんなの?」

 「カノコ、僕は旅に出ることに決めたから」

 「…え? なんで? あたしや子供たちは?」

 カノコはビックリしている様子です。

 「食べるカニは山のようにあるし、僕が居なくても大丈夫だろ?」

 「それは…そうだけど」

 言葉に詰まるカノコを見てアオガエルは何も云いません。
 旅をするかを決めるのはカニタであって、自分が云うべきことではないと思っているからです。

 「僕はもう少しこの辺りを見てみたいけど…旅をしたいなら、『アツクナレシマモトヒロ』って叫ぶと親切な鷲さんが連れて行ってくれるかもしれません」

 「そうなんだ。ありがとう」

 カニクイガエルのカニタは、井戸を目指して旅をすることにしました。

 「『アツクナレシマモトヒロ』ー!」

 「強肩強打ー。儂さ呼んだ?」

 イヌワシさんが来ました。なぜか牛タンを食べています。

 「おんや? カエルくん、イメチェン?」

 「別蛙だよ。僕はアオガエルが住んでいた井戸まで行きたいんだ。連れて行ってくれ」

 「…まあ、来季まで時間があるべ。乗れ」

 イヌワシは空を飛びながら、カニタと会話をしていました。

 「子供ができちゃって楽しくなくてさー」「海は広いだけで退屈で退屈で」「カニは食い飽きた」

 自分のことばかり喋るカニタに、イヌワシはイライラしてて、カニタを振り落としてしまいました。

 「わー、何するんだ!!」

 「おめ、キラキラしてなくて好きでね」

 イヌワシは飛び去ってしまいました。
 カニタは不愉快そうに歩き、トラ猫に出会いました。

 「君、アオガエルが云っていたトラか?」

 「ほう、アオガエルの友達か」

 「僕にもサクランボをくれ」

 呆れたようにトラ猫はその場を去りました。もちろん、サクランボは持っていても渡しません。トラ猫にとってカニタで潰す時間はなかったようです。
 がっかりしたようにカニタはとぼとぼ歩いて行きます。途中、お腹が減っている所でトノサマバッタに出会いました。

 「拙者を食べるでない」

 「僕はお腹が減っているんだ。食べるよ」

 追いかけっこが始まりました。
 お互いに全力で走りますが、カニタは今まで一度も全力で狩りをしたことのないカエル、トノサマバッタは一度も捕まらなかった百戦錬磨の武士。トノサマバッタは軽々と逃げ切りました。
 さらにお腹が空かせたまま、なんとか井戸に到着しました。

 「ここか。この下には僕が食べたこともない苔が…」


 カニタはピョンと井戸へと飛び降り、中に生えていた苔を食べてみました。しかし、それはとてもカニより美味しいと思えるものではありませんでした。

 「…帰るか」

 カニタは不愉快そうに井戸を登り始めました。
 アオガエルより体が大きいのでカニタは一日に4メートル登れました。しかし、翌朝自分の体が2メートル落ちていることに驚きました。

 「これじゃあ何日かかっても登れっこないじゃないか」

 カニタは弱気になり、この日は2メートルしか登れず、寝ている間に元の位置に戻ってしまいました。

 「なんてことだ! アオガエルに嘘を吐かれた! 全然登れない!」

 どんどんカニタは不安に、弱気になっていきます。
 この日はアオガエルへの文句を言い続けている間に疲れてしまい、1メートルしか登れませんでした。
 そんなことを繰り返している間、とうとう井戸の中にまで戻ってしまいました。

 「アオガエルめ! 僕を騙したな! なんでこんな目に!」

 苔を食べ、アオガエルへの怒りだけを吐き出すカニタは、月を初めて見ました。
 変化の少ない井戸の中で初めて、カニタは月が満ち欠けしていることに気が付きました。
 海でも毎日見えていましたが、全く別のものに見えたのです。

 「月はこんなにキレイなものだったのか…」

 カニタは泣いていました。そして決めました。

 「帰ろう。海に。カノコや子供たちの所に」

 月が満ち欠けしていることを教えるために、カニタは井戸から浮き上がりました。
 今度は一日に4メートル50センチも登れました。もともとアオガエルより体力が有ったのです。
 次の朝、2メートル落ちていても気にしません。月は満ち欠けすることはあっても、無くなることはないことに気が付いたからです。
 カニタは人生で一番頑張りました。アオガエルは楽しいと思いながら登った井戸を、必死に登りました。
 三日登り続け、明日には上に登れるという高さ、満月が見守る中、カニタは眠りにつきました。

 ごごごごごごー、という大きな音でカニタは目を覚ましました。
 外では、大きな大きなショベルカーが井戸を壊そうとしていていました。この井戸は古くなって人間は誰も使っていなかったので、取り壊されるということでした。
 そんなこと、カニタには分かりません。驚きのあまり、手を放しそうになっていました。

 「諦めるか、諦めるかー!」

 自分自身をこぶするように、カニタは跳びました。登るのではありません、全ての力を込め、上へと跳ねたのです。
 届け、届け、届け、カニタは必死に手を伸ばし…手は、届きませんでした。
 しかし、舌が届きました。

 「カニタさん、つかまって!」

 その声に、カニタは目の前のベロに自分のベロを絡ませます。それは決して外されません。少しずつ、体が引き上げられていきます。
 上に到着すると、そこにはアオガエルくんとトラ猫さんが居ました。
 トラ猫さんは二匹のカエルを乗せ、ブルドーザーを避けるように安全な場所へと抜け出てくれました。

 「カノコさんがね。呼び戻してほしいって云ってたので、来ちゃいました…泣いてますか?」

 「…助かった。トラ猫も…ありがとう」

 「ヒマ潰しだから、気にするな」

 トラ猫に乗せてもらって海へ向かう道中。
 冒険が終わったカニタはアオガエルに聞きました。
 「お前も海で暮らすんだろ?」「どうも私は塩水が体に合わないみたいで。長居は出来ないみたいです」「しかし、井戸は壊れてしまったじゃないか」

 いつの間にか、トノサマバッタもトラ猫の背中に居ました。
 「この先には港、という場所がある。そこに乗れば日本から出られる」「にほん?」「そなたは知らんのか? この国は日本という島での。外にはもっと大きな陸地が有るのだ」
 トノサマバッタの言葉に、アオガエルはキラキラと目を輝かせました。



 井の中の蛙、大海の広さを知らず。されど空の深さをしる。
 大海の蛙、空の深さを知らず。されど新たに知ることができる。



 井の中の蛙は、今日も行く。
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テーマ : 児童文学・童話・絵本
ジャンル : 小説・文学

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ママチャリ日本一周するために仕事を辞める変人。
特撮・古マンガ好きの若いのに懐古という変人です。

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