【クウガ】MISSING MEMORYS【ガメラ】~克明~【ティガ】
忘れた頃に突発的に更新するスタイル。
あるリントの集落へと続く獣道。
密集した木々の中、二頭の馬が走り抜ける。前を走る馬には殺気が立ち込めていた。
蹄鉄には血液と肉片がこびり付き、人間を踏みつぶしたばかりだとわかる。その馬を駆るのはバッタの意匠の有る能面のような顔をした怪人だった。
追いかける馬は、鋼の鎧=ゴウラムを纏う戦馬と、それを操る戦士・クウガ。
二頭の間は広がらず詰まらず。追走の中、開けた広場に出たのを合図に、ゴウラムの背中を蹴ってクウガが跳んだ。
「うおりゃああぁあああ!」
迫りくる気配に振り向いた飛蝗怪人の胸板をクウガの飛び蹴りが捉え、怪人は転がるように地面に叩きつけられた。
その胸板にはクウガの刻印が根を張るように広がっていくが、怪人の嗚咽がその進行を食い止める。
この怪人は既にゲゲルを成功させ、“ゴ”へ昇格した強豪怪人であり、黒や金の力を持たないクウガの赤の力だけでは存在を滅ぼしきれない。
「ジョパギ…バッ!」
封印力を抑えきれることを確信して怪人が嗤うが、背後から迫りくる気配には戦慄いた。もう遅い。
馬に融合していたゴウラムが活性化し、その全身に封印力を滾らせ、怪人を空中へとかちあげた。
「受け取れ!」
声に続いて木々の中から一張の弓が投げ渡された。
その弓はクウガの手の中で片手で扱える弓矢へと姿を変える。
赤から緑へと変わったその瞳は風の流れさえ見逃さない。その矢から逃れるのは天馬の翼をもってでなお不可能。一筋の光弾が空中で身動きを取れない怪人の全身を貫き、封印のエネルギーは怪人を大地へと封印した。
後のクウガとは異なり、黒の力も、金の力も、なにひとつ持たず、戦い抜く戦士。
戦い方も異なる彼らだが、みんな笑顔を守るという信念は、疑うべくもなく五代雄介と同じものであった。
戦いは長期化していた。
無数のグロンギたちはゲゲルの規則を整備しつつ、日本各地でゲゲルを敢行。
クウガは風の噂にその動きを聞きつけ、ゴウラムで急行して対抗していたが、グロンギたちはその動きを文字通り嘲笑いながらゲゲルを成立させていた。
中には、今回のバッタ怪人のように挑戦的にクウガに挑む者も居たが、そういった者は全てこの地に封印されていた。
協力しているのはこの地に住むリントの若者、ナガノ青年。
彼はクウガが力を発揮するために用いる弓、棒や剣を調達・整備する役目を買って出ていた。
ある日、クウガとナガノは集落への帰路についていた。
安息と休息は似て非なること。
ナガノは休息のつもりで、クウガは安息のつもりで終わりの見えない戦いの中、久しぶりに集落へと戻って来ていた。
戦いの中で不安が絶えることはないが、そんな中でも生活の中で観られる笑顔に、クウガは心の傷を癒していた。
「どうした? クウガ」
ナガノは微笑むクウガに不思議そうに尋ねる。
故郷と名前を失い、戦うことでしか存在を証明できなくなった自分が、誰かの笑顔の中にいること。それこそが戦う自分への最大の報酬であることをクウガは語らない。
「変わった奴だよな、お前も」
俺と一緒に戦おうというお前もどうかしている。そういってクウガは笑った。そうやって笑える自分に云いようのない感動を覚えていた。
ある日、クウガは夢を見た。
揺らめく戦火、泣き叫ぶ人々。一体の白い怪人が集落の中で暴れる。その怪人の黒い瞳が向けば、人々が燃え上がる。
その怪人に絶叫と共に、夢の中のクウガは殴り掛かるが、白い怪人は応えた様子もない。
その体を紫に、緑に、青に、次々と入れ替え、ゴウラムとの連携を試すが、どれも通じない。
そんな中、炎は人々を焼いていく。連なり延焼する死体の中に、ナガノとその家族を見つけたとき、クウガが叫んだ。
叫びと共に、クウガの体内の血管にどす黒い憎悪が流れていく。
憎悪の量は血液より多く、血液と混じり合って苦痛と解放感を伴いながら皮膚を突き破って噴出し、全身を黒く染めていく。
その黒は破壊と怒りを呼び、クウガの究極の力を引き出すと同時に、容易く白い怪人の胸板を一発の突きで粉砕した。
千切れて散らばった怪人の装甲は砕け、砕けた兜から覗く死相は笑顔だった。笑顔のまま死んでいるのは…クウガそのものだった。
死んでいるのは自分で、殺したのは自分で、人々の笑顔を守っているのは自分で、笑顔を奪ったのは自分で。
――俺は―――俺は、俺は、誰だ!?――
聖なる泉、枯れ果てし時、凄まじき戦士、雷の如く出で…太陽は闇に葬られん。
うなされながらクウガが目を覚ますと、そこには外套の男が居た。
名前を失った男にアークルを手渡し、クウガとしての生き方を示した男だ。
「夢を見たな?」
「…あれは、あんたが見せたのか?」
「違う。あれはお前が…いや、お前のアークルが…進化しようとしている」
「進化?」
「人は光になれる。同じように人はいつでも闇に沈む。闇は光以外の全ての力を飲み込める最強の力だ」
クウガは愕然としていた。
“メ”の相手に弾かれたり、“ゴ”との戦いにおいて封印できない敵が増えてきた。
もっと大きな力が欲しいと思っているのは事実だが、その自らの気持ちに危うさも感じていた。
「俺が…グロンギを殺すことに躊躇わなくなれば、良いんだな?」
「それを決めるのは…人だ。自分で決めるんだ」
男はフードを脱いだ。そこには人懐っこそうな青年が居た。
クウガは本能的に察した。先ほど夢の中に居た白い怪人に間違いなかった。まだ自分は夢の中に居る。ここは現実ではない。
「ねえ、究極の力を手にしてよ。僕と…遊ぼうよ」
これは現実ではないが現実だ。黒くならないと勝てない白い男は存在している。“ゴ”よりも強大な敵だ。
「…俺は光であり続ける」
「そう? じゃあ…こっちで遊ぶことにするよ」
不敵な笑顔を浮かべる青年の顔を観て、クウガは目を覚ました。
今度こそ現実。小さな家から飛び出し、周囲を見渡した。何か変化が無いか。
山、森、川、空、畑、山…変わりはないと思ったのはほんの一瞬だけ。山が二つある。
「嘘だろ…!」
空は空、川は川、だがひとつの山は山ではなかった。
ルルイエでは、北の玄武をガメラと呼び、南の朱雀はのちにイリスと呼ばれた。
その山に擬態していた巨躯の魔王は青龍。四本角の魔竜・ダグバがそこに居た。
「さあ、君と僕の…ザギバスゲゲルだよぉ!」
密集した木々の中、二頭の馬が走り抜ける。前を走る馬には殺気が立ち込めていた。
蹄鉄には血液と肉片がこびり付き、人間を踏みつぶしたばかりだとわかる。その馬を駆るのはバッタの意匠の有る能面のような顔をした怪人だった。
追いかける馬は、鋼の鎧=ゴウラムを纏う戦馬と、それを操る戦士・クウガ。
二頭の間は広がらず詰まらず。追走の中、開けた広場に出たのを合図に、ゴウラムの背中を蹴ってクウガが跳んだ。
「うおりゃああぁあああ!」
迫りくる気配に振り向いた飛蝗怪人の胸板をクウガの飛び蹴りが捉え、怪人は転がるように地面に叩きつけられた。
その胸板にはクウガの刻印が根を張るように広がっていくが、怪人の嗚咽がその進行を食い止める。
この怪人は既にゲゲルを成功させ、“ゴ”へ昇格した強豪怪人であり、黒や金の力を持たないクウガの赤の力だけでは存在を滅ぼしきれない。
「ジョパギ…バッ!」
封印力を抑えきれることを確信して怪人が嗤うが、背後から迫りくる気配には戦慄いた。もう遅い。
馬に融合していたゴウラムが活性化し、その全身に封印力を滾らせ、怪人を空中へとかちあげた。
「受け取れ!」
声に続いて木々の中から一張の弓が投げ渡された。
その弓はクウガの手の中で片手で扱える弓矢へと姿を変える。
赤から緑へと変わったその瞳は風の流れさえ見逃さない。その矢から逃れるのは天馬の翼をもってでなお不可能。一筋の光弾が空中で身動きを取れない怪人の全身を貫き、封印のエネルギーは怪人を大地へと封印した。
後のクウガとは異なり、黒の力も、金の力も、なにひとつ持たず、戦い抜く戦士。
戦い方も異なる彼らだが、みんな笑顔を守るという信念は、疑うべくもなく五代雄介と同じものであった。
戦いは長期化していた。
無数のグロンギたちはゲゲルの規則を整備しつつ、日本各地でゲゲルを敢行。
クウガは風の噂にその動きを聞きつけ、ゴウラムで急行して対抗していたが、グロンギたちはその動きを文字通り嘲笑いながらゲゲルを成立させていた。
中には、今回のバッタ怪人のように挑戦的にクウガに挑む者も居たが、そういった者は全てこの地に封印されていた。
協力しているのはこの地に住むリントの若者、ナガノ青年。
彼はクウガが力を発揮するために用いる弓、棒や剣を調達・整備する役目を買って出ていた。
ある日、クウガとナガノは集落への帰路についていた。
安息と休息は似て非なること。
ナガノは休息のつもりで、クウガは安息のつもりで終わりの見えない戦いの中、久しぶりに集落へと戻って来ていた。
戦いの中で不安が絶えることはないが、そんな中でも生活の中で観られる笑顔に、クウガは心の傷を癒していた。
「どうした? クウガ」
ナガノは微笑むクウガに不思議そうに尋ねる。
故郷と名前を失い、戦うことでしか存在を証明できなくなった自分が、誰かの笑顔の中にいること。それこそが戦う自分への最大の報酬であることをクウガは語らない。
「変わった奴だよな、お前も」
俺と一緒に戦おうというお前もどうかしている。そういってクウガは笑った。そうやって笑える自分に云いようのない感動を覚えていた。
ある日、クウガは夢を見た。
揺らめく戦火、泣き叫ぶ人々。一体の白い怪人が集落の中で暴れる。その怪人の黒い瞳が向けば、人々が燃え上がる。
その怪人に絶叫と共に、夢の中のクウガは殴り掛かるが、白い怪人は応えた様子もない。
その体を紫に、緑に、青に、次々と入れ替え、ゴウラムとの連携を試すが、どれも通じない。
そんな中、炎は人々を焼いていく。連なり延焼する死体の中に、ナガノとその家族を見つけたとき、クウガが叫んだ。
叫びと共に、クウガの体内の血管にどす黒い憎悪が流れていく。
憎悪の量は血液より多く、血液と混じり合って苦痛と解放感を伴いながら皮膚を突き破って噴出し、全身を黒く染めていく。
その黒は破壊と怒りを呼び、クウガの究極の力を引き出すと同時に、容易く白い怪人の胸板を一発の突きで粉砕した。
千切れて散らばった怪人の装甲は砕け、砕けた兜から覗く死相は笑顔だった。笑顔のまま死んでいるのは…クウガそのものだった。
死んでいるのは自分で、殺したのは自分で、人々の笑顔を守っているのは自分で、笑顔を奪ったのは自分で。
――俺は―――俺は、俺は、誰だ!?――
聖なる泉、枯れ果てし時、凄まじき戦士、雷の如く出で…太陽は闇に葬られん。
うなされながらクウガが目を覚ますと、そこには外套の男が居た。
名前を失った男にアークルを手渡し、クウガとしての生き方を示した男だ。
「夢を見たな?」
「…あれは、あんたが見せたのか?」
「違う。あれはお前が…いや、お前のアークルが…進化しようとしている」
「進化?」
「人は光になれる。同じように人はいつでも闇に沈む。闇は光以外の全ての力を飲み込める最強の力だ」
クウガは愕然としていた。
“メ”の相手に弾かれたり、“ゴ”との戦いにおいて封印できない敵が増えてきた。
もっと大きな力が欲しいと思っているのは事実だが、その自らの気持ちに危うさも感じていた。
「俺が…グロンギを殺すことに躊躇わなくなれば、良いんだな?」
「それを決めるのは…人だ。自分で決めるんだ」
男はフードを脱いだ。そこには人懐っこそうな青年が居た。
クウガは本能的に察した。先ほど夢の中に居た白い怪人に間違いなかった。まだ自分は夢の中に居る。ここは現実ではない。
「ねえ、究極の力を手にしてよ。僕と…遊ぼうよ」
これは現実ではないが現実だ。黒くならないと勝てない白い男は存在している。“ゴ”よりも強大な敵だ。
「…俺は光であり続ける」
「そう? じゃあ…こっちで遊ぶことにするよ」
不敵な笑顔を浮かべる青年の顔を観て、クウガは目を覚ました。
今度こそ現実。小さな家から飛び出し、周囲を見渡した。何か変化が無いか。
山、森、川、空、畑、山…変わりはないと思ったのはほんの一瞬だけ。山が二つある。
「嘘だろ…!」
空は空、川は川、だがひとつの山は山ではなかった。
ルルイエでは、北の玄武をガメラと呼び、南の朱雀はのちにイリスと呼ばれた。
その山に擬態していた巨躯の魔王は青龍。四本角の魔竜・ダグバがそこに居た。
「さあ、君と僕の…ザギバスゲゲルだよぉ!」
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