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オリジナル小説 『GO』 完全版

 小説家になろう、と同時投稿。
 あちらはホラー企画用なので、ギャグめいたオチは削除して投稿しています。
 こちらは完全版としての投稿です。





 
 「あ、ごめんなさい」
 「スンマセン」
 まだお昼なのにシャッターが閉まっている店も多く、中途半端に高いビルが多くて空も狭い。寂れた通りは今日に限って人が多かった。
 日曜ということもあるが、一番は先ほど私と彼がぶつかった理由。誰もがやっているボケモノGO。
 ……社会問題にもなっているボケモノを改めて説明する必要はないとは思うけど、一応。
 ボケモノこと【ボクのケダモノ】は二〇年くらい前に発表されてから、今に至るまで走り続けている……“何か”。
 ゲームといえばゲームなのだろうし、アニメといえばアニメだろうし、マンガといえばマンガだけど、どれでもずっとトップランナー。
 私が生まれた頃には既に最初のブームは終わっていたけど、それでもテレビで毎週ボケモノの冒険を楽しみにしていた。
 主人公のサトルと一緒に旅をしていくような気分だった。私は中でも草系のボケモノが好きで、冒険に出るなら絶対にマカフシギをパートナーにすると決めていたほど。
 今日は日曜日、私は昨日からネットの情報を頼りにマカフシギの進化系、キソウテンガイが出るという噂のポイントを散策していた、だが中々出ない。
 デマかな、私の使っているSNSで交換している情報も変なのが多いし。大事な日曜をウソ情報で潰されたってわけ?
 「あぁああああああ! もう! ま……」
 私は思わず出した大声に、口を押えた。
 いけないいけない、ただでさえ今、ボケモノGOは事故が多くて矢面に立たされることが多い。
 GPSと時計によって出現するボケモノが変わるというシステムから、スマホ片手に歩き回るボケモノトレーナーが多く、事故が多いという。
 しかし、そんなことは昔からスマホではよくあることだし、取り締まるくらいなら歩きタバコとかもっと迷惑なのを取り締まりなさいよ、と私は思うわけ。
 「もうチョウフシギ進化させてマカフシギにしようかなー……でもなー……」
 煩わしい熱中を鎮めるために私は雑居ビルの陰にある小奇麗な自販機にコインを入れて美味しい水……じゃない、ミネラルウォーターを買ったちょうどそのとき、スマホがバイブ機能でボケモノが近くに居ることを伝えてきた。
 マカフシギが出たかな、そう思いながらモニターを見るが、それはマカフシギではなかったが、残念ではなく驚きだった。
 白く整然としたフォルム、世界の裏側を見通すような尖った目、アニメ映画第一作の主役に抜擢された、超有名ケモノ。
 「ギィグツーッ!?」
 あまりの事態に叫んでしまったが、周りを気にする余裕はない。
 SNSでもゲッツしたという話を聞いたことのない激レアボケモノ。
 もし逃がしたら二度と会えないかもしれない、私はその場にしゃがみ込んで万全の体制を整え、今までの何百時間以上に及ぶボケモノの技量をほんの数分の攻防に注ぎ込む。そして。
 「やぁあっ、ったあああああああああ! ギーグツーッ!」
 またも絶叫してしまったが、歩いている人はみんなスマホをいじりながらイヤホンをしており、気が付いていないようだった。
 危機一髪。私は興奮に任せて激闘のスクリーンショットにメッセージを付け、SNSで呟き、やっと一息。私は激闘で渇いた自分を労おうと自販機にコインを入れよとして気が付く。さっき水を買っていたと。
 勝利の美酒、とばかりにちょっとばかり温まったミネラルウォーターを飲みまがら今日ゲッツしたボケモノ一覧を眺めれば、普通のボケモノの中のキラ星のようにギーグツー。
 笑いが止まらなかったが、何気なくSNSを確認するとバグったかと思って息が止まった。
 水を飲んでいる僅かな間に先ほどのギーグツーを捕まえたことを投稿したSNSのコメントが一〇〇〇人以上の人間が称賛を込めて拡散していたのだ。
 「みんな好きだなー…」
 驚きの次は静かに優越感がやってきた。
 コメントが来たことを伝える音が鳴りやまず、SNSでは私のコメントが繋がり、直前に私が今日はビル街で散策するといっていたコメントもSNS上に拡散されて行く。
 “すごいです!”“ここに行けばゲットできるらしい!”“ウソに決まっているだろ”
 “場所特定した”“俺はこれからギーグツーをゲッツしに行くぜ!”“今から行くので場所を教えてくれませんか?”
 見ず知らずのユーザーのコメントが止まらない、何か大きなものが動いているような気がした。
 キソウテンガイは今日のところは諦めようと思って立ち上がり、周囲を見渡したところで固まった。
 視界に入るのは人、人、人。満員電車というか満員空間。アスファルトがほとんど見えない。
 しかも全ての人々が俯くようにスマートフォンを覗き込み、耳にはイヤホンかヘッドホン、そして競うようなスピードで歩いており、何事かと考えていると背中に強い衝撃を受けてぐらついて私は倒れた。
 「痛ッ!」
 「スンマセン」
 ぶつかったのは例によってスマホを片手にイヤホンを差した青年、先ほどの彼とは別人だが、まったく同じような口調での謝罪だった。
 後ろからぶつかって来た人は、当然のように視線をスマホから切ることなく、口だけでそう云ってそのまま去って行った。
 私はとっさにスマホだけは守るように身体の内側に巻き込んだが、そのせいで肘を擦りむいた。だけどそれよりももっと深刻な問題があった。
 まだ起き上がれていない私を周りの人たちは見ないように歩く……というか、完全に見えていない。無数の人々がスピードを緩めず突進してくる。
 私はドキュメント番組で見たバッファローの群れでの突進を連想し、肘の痛みを忘れて自販機の横に隠れるように身体を引きずった。
 そして、人々のスマホに映っているものを見て、ハッとした。
 半数がボケモノGOの操作画面、そして残り半分は私がさっきしたSNSへの投稿を見ていたのだ。
 彼らは凄いスピードで移動しているが、それぞれがまるでコンピューターで計算されいるように、幾何学模様を描く電動ミシン針のように、互いに匂いで交信する軍隊蟻のように、交差していく。
 曲芸でもしているのか? 何かの冗談なのか?
 空気に飲まれながらも、私は誰にもぶつからずにここを突破できるとは思えなかった。 腕を伝って先ほどの肘の傷からスマホのモニターに血が一滴ポタリ。
 「すみませーん、通りたいんですけどー!」
 予想していたけど、言葉は届かない。
 聞こえるのは無数の人間の蠢くような衣擦れの音ばかり。視界はすべて人間で埋め尽くされているというのに、静かすぎる。
 「うおおおおおお! やった! ギーグツーだ!」
 人垣から久しぶりに聞いた数分前の自分と全く同じ声に私は震撼した。ボケモノをゲッツするためにはスマホを操作してボケモノと戦わなければならない。そうするためには、もちろん“足を止めなければならない”。
 今、人々は規則正しく、歯車のように歩いているが、そんな中で立ち止まろうものならば。歯車がひとつだけ止まってしまおうものなら。
 「スンマセン」
 操作しようと止まった彼を背後から別の男が押すようにして突き飛ばした。彼は転びそうになり、そこで異常に気が付いた。
 「……え。なにこれ?」
 「ダメ! 立ち止まらないで! そのまま歩いて!」
 私の叫びは彼自身のイヤホンに遮られ、彼はその場に立ち止まってしまい、そしてスマホを操作するため俯いたまま歩く“歯車”と化した人人の肘や頭が次々と彼を襲った。
 「スンマセン」
 「スンマセン」
 「え、止まれって! オイ! 俺! ここに居るぞ」
 「スンマセン」
 「っぐえ! が、あ、ああああ!」
 「スンマセン」
 「スンマセン」
 人の波に飲まれた。文字通り。
 彼は無意識な人々の頭突きや肘鉄を受けて転倒し、そのまま起き上がってこなかった。
 ただ、彼が倒れたはずの位置を通る人々が“段差”を乗り越えるように一歩か二歩、頭一つ高くなっていることが、彼の惨状を知らせていた。
 「……警察! 警察呼ばないと!」
 私はスマホをタッチして一一〇番をゆっくりと押す。落ち着いて。慎重に。
 【はい、一一〇番です。事件ですか? 事故ですか?】
 人生初の通報は上手く行った。年齢を感じさせる低い声に私は泣きそうになった。
 【もしもし? どうされましたか?】
 「あ、はい、すいません、えっと、その……今、目の前で人が倒れて……」
 【急病人ですか?】
 「いえ、違うんです、なんていうんでしょう、事故……だと思うんですけど、でも、ただの事故でもないっていうか……」
 【落ち着いて。大丈夫です。ゆっくりで結構です】
 「ありがとうございます。えっと、実は救急車も必要だと思うんですけど、その」
 【あっと……失礼、こんなときに……え?】
 「? どうしたんですか? 刑事さ……」
 【わああああああああ! ファイガー来た! ファイガー来た! ウソだろ! この部屋でこんなレアボケモノ来るなんて思わなかったうぉおお!】
 さっきまでの落ち着いた雰囲気はどこに行ったの? スマホから聞こえてきた発狂した大声に、私の持っていた言葉は全て吹き飛ばされてしまったようだった。
 「刑事さん? 刑事さん! ファイガーじゃなくて! 伝説のボケモノなのはわかりますけど、今は……」
 【ヒャッハァアアアアアアアアア! 入れ食いだああああ! 祭りじゃあ! ファイガー祭りじゃぁあああ】
 プツン。私は通話を切っていた。情けなくて。混乱して。怖くて。
 今、私を中心に何かがおかしくなっている。私にもギーグツーに遭遇したときに起きていた“何か”だ。
 熱中するという意味のフィーバーは、ラテン語の熱病を意味するフェブリスから来ているというのを漫画で読んだことが有る。
 まさしくそれだ。治療薬はレアボケモノだけ。ひたすらボケモノに熱中している。私や先ほど踏みつぶされた彼はギーグツーと遭遇したことで、この流れから“抜け出て”しまった。
 この熱病の渦の中を泳ぐならば無事で切り抜けられる。しかし、流れから一度でも出てしまえば、流れに身を割かれてしまう。
 「…あ、ギーグツーだ!」
 「え、うそ、来た!」
 「ギイ様!」
 時間の問題。次々に人波の中から声が上がる。
 「スンマセン」
 「スンマセン」
 「スンマセン」
 「スンマセン」
 「スンマセン」
 「スンマセン」
 リピート映像のように、それでいて全く別の人たちが体当たりを受け、混乱したまま転倒し、そのままギィグツーと遭遇していない通行人たちの“段差”になる。
 蟻が仲間の死体を踏み越えて獲物に群がるような流れだが、それでも全く減る気配が無い。どこからともなく、別の人なのに、全く同じゲームをしながらイヤホンをして行進し、肩がぶつかれば一言謝ってそのまま歩き続ける。
 私はただその光景を自販機の陰から見ていた。身動きが取れなかった。少しでも動いたら飲み込まれそうな気がして。
 絶叫がサラウンドで聞こえてくる。いくつも同時に。でも私はイヤホンで耳を閉ざすことはできない。耳を閉ざせばその間に自分も“段差”にされてしまいそうで。
 発生する発声はすぐに聞こえなくなる。逃げ出すことができたのか、それとも悲鳴も出せないほどに“段差”になってしまったのか。
 その時間は長かったのか、短かったのか、そしてその混乱は終息することなく、次の姿へと進化した。
 自販機の前でジュースを飲もうと立ち止まる人が現れた。当たり前だ。ボケモノを探して歩き回って喉が渇く人が居る。
 もちろん、自販機の前と云っても、僅かな時間でも止まれば。
 「スンマセン」
 「スンマセン」
 体当たりを受けて転んでしまう、潰されてしまう。
 自販機の前に、“段差”が現れた。私の身体は“段差”になったお姉さんと目が合ったとき、動き出していた。
 雑居ビルと自販機の隙間をクライミングするように登っていた。自販機のケーブルに指を絡ませて、コンクリの壁に背中を押し当てて。
 皮が裂けて血が滲んでも、痛みを感じるより先に恐怖を原動力に上へ上へと身体が登っている。
 自販機の上から雑居ビルの二階へとよじ登る。悪いことをしているということは分かるが、とにかくこの場には居られない。私が足を離すと自販機がガタンと小さな音を立てた。
 転んで“段差”になってしまった人が、他の人に蹴られるようにして自販機の下に押し込まれているようだった。悲鳴と助けを呼ぶ声がするが、その声に救助に向かえる人は私も含めてこの場にひとりもいない。
 【ボケモノ、ゲッツだぜー!】
 街頭テレビから、再放送のボケモノが放送されていた。人生で初めてボケモノのOPに憤りを覚えているが、そんなことをしている場合ではない。
 この事態は自分のSNS投稿から始まっているというのに逃げ出す自分が許せない。
 しかしながら、今の私には状況を打開する手段が思いつかない。脱出して直接警察署に駆け込んでこの事態を伝えるのだ。
 警察署も同じような事態になっている可能性は高いが、ここまで多くの人間がいることはないだろうし立ち止まることはできる。立ち止まれるなら私が直接スマホを壊してでも話を聞いてもらえばいい。
 先ほどのSNS投稿を確認する。すでに百万回、他のユーザーがこの情報を拡散していることになっている。もっと集まってくる可能性も高い、急がなければならない。
 ビルとビルの間を飛び回るというと忍者か何かようだが、ここはアニメとは違い狭い日本である。
 建物同士の間隔は広くなく、少し助走を付ければ怖くもなく飛び越えられる……下の道路に比べれば、格段に怖くない、という意味だが。
 着地でバランスを崩すことは多く、結果としてお気に入りのブラウスは肘から破れてレギンスは黒ずみ、スニーカーにはベッタリと蜘蛛の巣が絡んでいる……だけだ。
 「……チャームポイントは靴紐からぶら下がる干からびた蝶でございまーす……っふ、っふ……」
 ダメ。泣きそう。泣いちゃダメだ。泣いたらもう動けなくなる。がんばれ、がんばれ、私がんばれ……ああ、もう、やだよぉ……。
 「びぃいええええええああああああん!」
 ビルの間に響き渡る鳴き声、“私ではない”。
 自分より先に誰かが泣いてしまったことで、私の涙は引っ込んでいた。
 泣き声の主は目の前のビルに居る。この高さなら行ける。私はボロボロの身体をひきずって壁を移動し、その泣き声の元、とあるアパートのベランダに辿り着いた。
 窓から覗き込むと、中には例によってヘッドホンをしたままフローリングに寝そべってスマホを操作する女性、そして部屋の奥のベビーベッドから泣き声が聞こえてくる。
 赤ちゃんが可哀想だけど、二十四時間三百六十五日ずっと子育てをしていれば息抜きくらいしたくなるだろう。これは私が今、口を出すべき問題ではないと先を急ごうとしたとき、これが今私が行動しなければならない深刻な事態であることを把握した。
 「……え、ガスの臭い、だよね……?」
 一度切った視線をもう一回アパートの中に戻す。するとベビーベッドの向こう側、キッチンのガスレンジにはヤカンが乗っているが火が点いていない。絵に描いたような状態に背筋に冷たい物を感じた。
 まず、あの女の人……多分、赤ちゃんのお母さんは、ヤカンを掛けたのを忘れてゲームをする。ヤカンからお湯が吹きこぼれてガスレンジの火を消す。火が消えれば、ガスは消費されずに空気中に溜まる。
 都市ガスは空気より軽いから上に溜まる。だからベビーベッドに寝ている赤ちゃんは気付いているけど、フローリングに寝ているお母さんは気付いてない!
 「あー……もう……逃がしちゃったよぉ……」
 お母さんがそんなことを云いながら傍らに置いてある灰皿を引き寄せ……って、待ってぇえーっ! 赤ちゃん居る部屋で吸うのか? いや、“ガスが充満した部屋で灰皿を使うつもり”か!?
 「ちょ、お母さん! 開けてください! ガス! 漏れてます! ガスっ!」
 窓をバンバンと叩き、大声を出すが全然聞こえてない!
 ガラスを割るしかないけど、私の手元で一番堅そうなのはスマホくらい、そしてベランダには砂埃と燃えるゴミ袋が置いてあるだけ。ゴミ袋から堅そうなものを探す時間はない!
 「一息一息、っと」
 「わあああああ、待って! 待って! 待って! 火を点けないで! 待って!」
 …って、待って? あれ?


 「一息一息、っと」
 お母さんはタバコをくわえこみ、身体を起こさないまま器用にポケットの中から百円ライターを取り出し……そこで“私の手”がライターを奪い取った。
 いきなり出現した私に、お母さんは目を白黒させながらヘッドホンを外し、身体を起こした。
 「ちょ、あんた! 何よ!?」
 「何はこっちのセリフです! ガス漏れしても気付かないってなんですか! 赤ちゃんが泣いて教えてくれてるのに! しかも窓のカギも掛けてないってどういうことですか!」
 ……そうなのだ。
 よくよく考えたら、赤ちゃんの声がクリアに聞こえたり、ガスの臭いがしっかり感じ取れたりと、最初から窓は半開きだった。
 それを確認もせずに窓をバンバン叩いていたのだから、自分がどれだけ焦っていたのか、今にして思うと情けない。
 「え、て、あ?……この臭い!?」
 やっと事態を察したらしく、お母さんはガスレンジへと走った
 そして私も事態を察した。今の自分の状態を説明できる状況じゃない、と。普通に不法侵入だし。
 「それじゃ気を付けて下さいね! それじゃ!」
 私は土足だけはまずいとスニーカーを脱いで玄関へ向かい、そのまま外へと出てからスニーカーを履きなおした……私がめちゃくちゃ混乱しているのはわかっている。なにしているのだろう。
 しかしながら、玄関側の通路から出られたのは良かった。通路から下を覗くと人は多いが、先ほどの路地ほどじゃない。
 ギーグツーを追っているボケモノユーザーは、私が先ほど捕まえたエリアを狙って徘徊しているはずであり、ビルを挟んだ通りには人が少ないのは当然だ。
 何度か体当たりされるだろうが、決して通り抜けられないほどの量ではない、覚悟さえあれば通過できるはずだ!
 「やった……! あとは警察に行くだけ!」
 私はアパートの外階段を快適に下る。移動していても服が擦り切れない移動がとても心地良い。
 【現場です! 現場です! すごいことになっています! 人が集まって身動きが取れない状態です!】
 そのとき、ボケモノの再放送をやっていた街頭テレビから声が聞こえてきた。モニターに映っているのは先ほどビルの上から見ていた雑踏。
 それが他の大人たちが事件に気付いたということであると理解した瞬間、身体から力が抜けて階段にへたりこんだ。テレビ局が騒ぎに気付いてくれたのだ。やった。あとは誰かがなんとかしてくれる。
 緊張の糸が切れるというのを初めて実感した。今まで支えていた何かがプツンと無くなる感触。ふと空を見上げると、なるほど。取材のヘリが飛んでいる。
 疲れた。そういえば買ったミネラルウォーターどうしたんだろうか、どこかで落としたかな……そんなことを考えていた。
 【……ちょっと待って! どうしたんですか!】
 そしてテレビから聞こえてくる音声。かなり慌てているアナウンサーさんの声色に嫌な予感がした。
 【スンマセン、ギーグツー、入った】
 カメラマンも慌てているようで映像が大きく揺れ、一瞬だけパイロットがスマホを弄っている映像が瞬間映りこんだ。
 【そんなもんやってる場合か! 操縦桿持てよ!】
 【スンマセン】
 放送が中断されたが、どうなったかはすぐにわかった。一台のヘリコプターが墜落してきているのが見える。“ちょうど私の方に”









 「大丈夫ですか! 名前は云えますか!」
 まどろみはひどく短かった。脳の一部が覚醒すると全身の痛みで残りが覚め、自分が救急車に乗っていることを瞬く間に理解した。
 「はい、えっと、中聖子(なかのせいし)陽子(ようこ)です。私、ひどいんですか?」
 「いいえ! 爆風に巻かれただけです、大丈夫です! そのまま! そのまま意識を保ってください!」
 ……結構ヤバいんじゃないだろうか。私。
 だが、それよりも心配なことがある。
 「……あの、隊員さん、ボケモノGO、ってやってます……か?」
 「え? ……ああ、それで将棋倒しになっていたみたいですね。大丈夫、私はやっていませんよ。仕事用のPHSしか持ってないので、したくてもできない口です」
 「……良かった」
 その返事を聞いて、全身の痛みを越えた安心感が心から湧き出してくる。意識が遠退く、眠ってしまおう……。
 「まだ! まだですよ! 陽子さん! 眠らないで! 病院まで頑張ってください!」
 ありがとう、隊員さん、でも無理です……安心しちゃったから……おやすみなさい……。
 そのとき、ヴーという聞き覚えのある音が聞こえてきた。聞き間違いかと思った。聞き間違いだと祈った。救急車の中だから別の機器の音か、そうでなければ私のスマホのバイブで有ってほしいと思った。
 しかし、私のスマホはポケットの中で振動を感じずに音だけするわけはないし、目の前の隊員さんが首から下げているPHSは鳴っていない。
 「……え? マジでギーグツー来た!」
 当たり前の現象。
 運転席から聞こえてきた声、そして続いて来るだろう破砕音と衝撃に、私はもう怯えない!
 「救急隊員さん! 私は良いから運転席の人、なんとかして!」
 「? え?」
 「口答えしない! タイイン、体当たりよ! なんなら十万ボルトでもなんでもいいから運転代わって!」

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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ママチャリ日本一周するために仕事を辞める変人。
特撮・古マンガ好きの若いのに懐古という変人です。

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