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空想科学探偵 エピローグ1




二〇一八年一月一二日


 早朝。陽子は事務所のソファで目を覚ました。昨日は疲れに任せて着替えもせずに寝てしまったらしい。
 昨日は謎の依頼人からの依頼を受けてから、須古冬美の無実を晴らすために調査を続けた。
 未知道カンパニーへの取材、嶋田秋由との会話、人工知能のハルとの遭遇。
 身体中のバネが捩れているような感覚を撥ね退けるように肩や首を回している頃、電話は鳴った。
「これは俺が電話番号を間違えてる電話だ。適当に聞いてくれ」
 電話の主は疑う余地なく米田。オフレコの情報を伝えるときの、お馴染みの言い訳だった。
 陽子は静かに耳を傾けた。それこそが返答になると知っているから。
「三毛正二が死んだ。自殺ってことになってるが……意見が聞きたい……ああ、返答できないんだったな。今、そっちに向かってる」
 運転中に電話をするのも警察官としてどうなのかと陽子は思ったが、返答するわけにもいかなかった。
 死体が発見されたのは数時間前、死亡推定時刻はその数時間前。詳細な時間は調査中らしい。
 手首を掻き切り、失血死しているのを社員が発見した。パソコンには自分が国木優と嶋田九朗を殺害し、その後に自殺したという遺書のような文面も残されていた。
 遭遇したハルの言葉、米田が日下から託された国木優の日記、未知道カンパニーで出会った関の証言。
 ふたりで調べ上げた情報からは、何一つ答えとして合致しない。
 米田の罵詈めいた雑言を聞き流しつつ、陽子は電話の先の米田が車を停め、階段を駆け上がってくる音に合わせて玄関を開けた。
「……で、間違い電話に関して、何か質問はあるか、中聖子?」
「いくつか有りますが、嶋田さんを殺したのが三毛さん、というのは警察ではどう解釈しているんですか?」
「人格交換IDを偽造したってことにしたらしい。つまり須古冬美の肉体に入ってたのは三毛、そういう筋書きにしたいらしい」
「……まあ、実際、嶋田さんの人格が嶋田さんを殺したのを国木さんだと偽証していたわけですから……それも可能でしょうね。
 それなら、拳銃は? どうなっているんですか? 行方不明のままですか?」
 実際には嶋田九朗が自分の頭を弾き飛ばしたあと、日下に返したはずだが、そこでも米田は渋い顔をした。
「見付かってない。当たり前だ。三毛は犯人じゃないし、実物は嶋田が日下のところに返しに行ったんだからな」
 それ以上陽子は指摘しなかった。というのも、見当が付くからだ。
 拳銃が見付からなくとも犯人が居るならば、そこからは“行方不明の拳銃の捜索”であって“犯人探し”ではなくなる。
 そのまま見付からなかったとしても、それ以上の進展は無く、事件は犯人の自殺ということで収束するだろう。
「最後の質問ですが、米田さんはどうしたいですか?」
「真実だ! “お前とは意見が違うとしても”、な!」
「……そうですね、確かに……“私の仕事は終わりました”から。冬美さんの無実が証明されたわけですから」
 そこが、米田と陽子の相違点だった。
 米田は真犯人の逮捕と真実の解明が目的だが、陽子の受けた依頼は“須古冬美の無実の証明”である。
 三毛が殺人犯として自殺したなら、そこで陽子の依頼は達成されてしまった。彼女の行動と関係なく。
「でも、米田さん、本当に真実の追求をしたいんですか?」
「どういう意味だ?」
「事実が公表されれば、ハルさんは世界初の人工知能として複製されたり、販売されたり、実験されるでしょう。
 それって、米田さんが求めること? 違うでしょ? あの子の平和も守るべきじゃない? あの子の自由も守られるべきじゃないの?」
 米田は返す言葉を持ち合わせていなかった。
 ふたりとも立場は違ったが、根本的なところで共通していた。すなわち、誰かの笑顔を守る、という信念だ。
 事件は解決してしまったのだ。真実とは異なる形ではあったが、少なくとも須古冬美の釈放、ハルの秘密が守られた形。
「三毛が殺されたのは自業自得だった。人工知能を弄んで儲けようとしていたし、他にも何かやっていたかもしれない……」
 米田は、三毛の死亡をあっさりと殺害されたと断言した。その他の意見まで陽子は異論が無かった。
「だが、それでも殺人は殺人。三毛は生きて罪を償う必要が有った。俺は三毛を殺したヤツを追うことにする」
「それは、警察の方針とも食い違うんじゃありませんか?」
「不良刑事には関係ないな」
「え?」
「あ?」
「……不良刑事の自覚、有ったんですね。米田さん」
 ビシッ、と米田チョップが炸裂した。
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