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空想科学探偵 ラスト


 二〇一八年一月一九日

 賢作が到達したのは、やはり白い部屋だった。
 他の検索ロボットでは決して到達できない別次元の領域。以前、ハルが動画投稿サイトに作っていた物に似ていた。
 その中には、やはり正体を特定できない文字のデータ。このデータが人の姿として読み取る機能を賢作は持ち合わせていないが、これこそが須古冬美が人格を交換した擬似電脳肉体・アバターだった。
 検索に分かることは、このデータが以前のハルと名乗っていたデータとは似て非なるデータであることだけ。匂いが違う。
《君が……ハルが云っていたドーベルマン、かな?》
《あなたが嶋田九朗さんですか、って飼い主が訊いてるよ》
《ここに来たということは、事件は全部解いてくれたのかな?》
《あんたのヒントを解釈すると、こうしかならないだろ? 単純明快》
 パソコンの中へと出力するため、そして自分の心をまとめるために、陽子はつぶやいた。

「どう考えても、依頼人の緑フードの人物……つまり、あなたは多くの情報を知っていたのにそれを教えなかった。
 つまり、あなたは私に真実へ到達はさせたいが真実を世間に広めたくない人物。米田さんの資料を読む内、嶋田九朗さんを殺したのは国木優という人格だったけど、それなら候補者は三人しか居ないわ」
スマホのモニタに返答が表示される――誰と誰と誰?
「もちろん、一人目は国木優さん……けど、死体が発見されているし、もちろん違う。万が一、クローンか何かで死を偽装したというなら……ここでそんな形跡を残すわけがない。
 人格交換で死を偽装していた場合も、それならそれで、人格交換の履歴が残るんでしょ? だったら、履歴を改竄できる嶋田九朗さんや三毛正二さんが容疑者ってわけ」
――なるほど、それで三毛正二か嶋田九朗が残る二人の容疑者か。
「社長か技術開発の人ですから。真犯人か共犯者ってことになるでしょ? そこで嶋田九朗さんが亡くなったから……」
――三毛正二が犯人だな。
「でも、これも有り得ないのよ。会社はこの事件で経済的打撃を受けてるし、もっとダメージの無い手段で殺害することもできたはずでしょ」
――こじ付けだな。
「理由は後付けですから。最初から“自殺っぽいな”って思ってやっていたわけですし」
――なんだ、そりゃ。
「私の目的は犯人探しじゃないもの。私の依頼は須古冬美ちゃんの無実を証明すること。真犯人が誰でも、本当はどうだって良いことだから」
――なるほどな……では、依頼はなんの意味もなかったわけだ。
「そうね。三毛さんの自殺で事件は解決したから」
――君には迷惑を掛けたな。
「良いですよ。報酬は頂きますから。基本料金に、必要経費を合わせた分が……賢作、金額出して」
――安すぎないか? 探偵の報酬はこれくらいなのか?
「うちの場合、基本料金が安いんです。草むしりとか、大掃除とか、そういうのが多いので」
――なるほど。なら残りは須古冬美に渡してくれないか? 一言謝っておいてくれると助かる。
「事情は説明せず、大金だけを受け取らせろ、と?」
――そうだ。頼むぞ。探偵。
「大変そうですが、引き受けますよ。その分も日当は頂きますけどね。草むしりより腰が痛くならなそうなので、これくらいで」
――なるほどな。一色に似ているな。君は。
「あなたは、一色とは……賢とはどんな関係だったんですか?」
――ただの教え子と教師だよ。といっても、あのガキは人工知能の研究を“苦しむと分かっているものをなぜ生み出すのか”と云っていたがね。
「後悔していますか」
――全く。私は“ハル”を生み出せた。それは最も大きな喜びだった。
「秋由さんに伺いました。ハルちゃんには娘さんの脳細胞を使ったと……喜びは父親としてですか? 科学者としてですか?」
――人間としてだな。ハルと出会えて良かった。それだけだよ。



 オリジナルの出せなかった答えを出したコピークロウは、既に箱から出ていたのかもしれない。
 嶋田九朗とハルが、科学者と製作物でも、父親と娘でもなく、ただお互いを大切に想うコピークロウとハルというふたつの感情になった。
 猫が生きているか死んでいるかはわからない。だが、箱の中には猫は居ない。
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