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読みきり小説・Yの喜劇

小説書きは、考えなくてもダメだが、ネタを練りすぎてもダメになる。
最近、そんな気配がするので、スーパーアドリブ。 一日で小説を書いてみた。
ショート・ショート。


タイトル:Yの喜劇
『続きを読む』から読んでくださいな。
彼、山口洋介(やまぐち ようすけ)は優等生である。
その優等生ぶりは小学校の頃から現れており、背の伸びにリンクするように年々顕著になっていく。
小学校一年目から皆勤賞は当たり前だし、ペーパーテストでは100点以下を見たことがない。


 「ああー、また有った! タバコの吸殻!」


その優等生ぶりは、中学2年生にして朝5時にゴミ拾いをしながら登校する、という凄い学生を形成していた。


 「スチール缶に…ああもう! 中身も残ってるよ! このペットボトル!」


桃太郎のキビ団子のように、腰にはそれぞれ、スチールやアルミ、ペットボトルと書かれた袋が下がっている。
手馴れた手付きで、それぞれのゴミを法令通りに解体したり、潰す…もはや達人技。


 「ああー、もう! 明日もこの道を通って通学しよう! 一日じゃ片付けきれないや!」


恐るべきことに、彼は多くの道を浄化すべく、毎日別の道を通っているのだ。
…優等生も、度を過ぎれば変人である。


 「これはスチール、これは燃えるゴミ、これは生ゴミ…って、うぁわぁっ!?


落ちていたのは、プラスチックでもガラスでもない。 紙。
表紙には大人のお姉さんが看護婦の服を着てセクシーポーズをし、聞いたこともないような言葉も書いてある。
いわゆる、“大人の雑誌”だ。


 「この道は通学路なのに! これじゃあ小学生の子たちが読んじゃう…。」


だが、そのとき、彼は気が付いた。
彼の住む自治体の規則では、雑誌は『雑誌類』という区分なのだ。
そして、彼の腰に下がっているゴミ袋の中に、『雑誌類』のゴミ袋はない。
一時的とはいえ、この本を他のゴミと一緒にはできない、かといって放置もできない。


 「濡れたり…汚れたりしてるわけじゃないし…しょうがないなぁ…。」


洋介は、持っていた他の本と一緒に持ち運ぶことに決めた。
すなわち、整理整頓され、余計な物は何もない、通学鞄だ。



Yの喜劇


登校してからも早すぎるため、教室はガラガラ。
そんな中でも、優等生の洋介は、窓を拭き、生徒や教員が気持ちよく授業を進行できるように尽くす。
教室の戸が開き、洋介は声が届く一瞬前、鏡のように光る窓を鏡のように使って着た生徒が友人であることを察した。


 「オーッス! 洋介!」


 「おはよう、木ノ下。」


友人同士というのは、なんらかの側面において両極端である場合が多々ある。
洋介にとっての木ノ下はその典型であり、リーゼントやモヒカンをするほど錯誤的ではないが、素行不良に属するタイプだ。


 「シャーペン忘れたからよ、借りるぜ。」


 「構わないよ。 余分に持ってきてるから。」


木ノ下が勝手知ったるなんとやらで洋介のカバンを開け…シャーペン以外の中身に目を見張った。


 「洋介ぇー! お前もオトコのコになるのはいいけどよぉー!
  …持ってきて、ナニに使う気なんだよ、テメーは。」


 「何って…ああ、それ? それはさっき捨ててあったんだよ、ポイ捨て。
  雑誌類のゴミ束、持ってなかったから。」


“当たり前だろ?”という調子で云う友人に今の状況を理解した木ノ下。
だが、それと同時にそれが何を意味するのか、木ノ下はそちらも理解していた。


 「…これ、他のヤツに見せるのだけはやめろよ?」


 「どうして?」


 「どうしてって…お前、色々と噂立ってるんだぜ?
  朝早くに登校するのは早く来て、学校の保健室のアレでナニしてる、とか。
  色々と有るけどよ、“山口洋介ムッツリ説”は根強いんだぜ?」


サアー…と青ざめる顔半分、そしてもう半分は赤面する。


 「そ、そんなこと云われてるの!? ボクって!」


 「そんな中で…よりによって、巻頭グラビアがナースコスプレかよ。
  こんなの出たらよ、ちょっと面白くなっちまう。 どうする? 俺があとで捨てとくか?」


 「…ううん! それで見つかったら、木ノ下に悪いよ。
  ボクが…ボクが! 放課後まで隠し通して、なんとかするよ!」


 「…っつーか、俺は別に見つかっても“やっぱりな”って程度だと思うんだけどよ…?」


 「それでも! 押し付けはよくない!
  ボクが拾ったんだから、ボクが最後まで…がんばるよ!」


 「そのテンションがよくわかんねーけど…まあ、頑張れ。」


一時限目


 「頑張ってるけど…」


二時限目


 「よく考えたら…」


三時限目


 「カバンの中に有る限り…」


四時限目


 「見つからない! 大丈夫じゃないか。」


そんなこんなで、もう四時限目も終わり、次は昼休み。
最初にして、最大の障害が優等生を襲った。


弁 当 箱 を 出 す !


その行為には、必然的にカバンを開ける行程が含まれる。
昼休みなので、授業中に比べれば人数は少ないが、それでも教室の中には多くの生徒の姿。
洋介の席は、前ではないが後ろでもなく、前後左右、どの角度にも生徒の目がある。
死角を探すべく視点を振る中、木ノ下と目が合った。


 「(カバンを開けるんじゃあぁーねー!
   今日は弁当は諦めて購買に買いに行くんだァーッ!)」


状況を察した木ノ下が、怪しくない程度にブロックサインを交え、目で語る。


 「(いいや! それはできないッ!
   この弁当はお母さんが頑張って作ってくれたもの!
   食べないで残すなんて…できるわけがァないッ!)」


同じく、ブロックサインと視線で返答する洋介。


 「(ならば! 俺が昼飯をさっさと食べ終わり、お前の背後に回ってやるッ!
   俺の昼飯はサンドイッチ! 腹ペコの男子中学生なら2分で食えるぜーッ!)」


 「(ゴメン! 恩に着る! 木ノ下! シンユウだ!)」


ブロックサインに宿る友情、熱い、コレが青春だといわんばかりだ。


 「…な、なにやってるの? 山口くん。」


さすがに、さすがに怪しかった。
いくらなんでも、こめかみに小指を当てて舌を出し、目をギョロギョロ動すサインは怪しい。
青春と友情をジェスチャーで表現する二人は、教室の中で完全に浮いていた。


 「え、うん!? いやね!? …アレだよ!」


嘘も下手な山口洋介。 さすが優等生。
かなりテンパった山口だったが、話しかけた女学生はそれ以上にテンパっており、気にしていなかった。


 「…あ…あのねっ? 山口くん、その、一緒にお昼ご飯、食べ…てくれない?」


 「うん、いいよ。」


嘘は下手だが、回答は明朗で善意的。 それが優等生:山口洋介。


 「(断れよォオオオオオオオ!)」


 「(ゴメンン~~ーーーんっ!!)」


ブロックサインもなく、心中で木ノ下は叫び、山口は謝った。
“一緒にお昼ご飯”を受けてしまった。
受けてしまった以上、弁当箱を出すしかない。
弁当箱を出すには、カバンを開け、例の“オトナな雑誌”を晒す危険を冒さなければならない。


 「(いや、手は有る! ここ以外で食べるんだ!
   教室以外の場所で食うことにして、そこまでカバンごと持って行く!
   背後に目がなければ、何の問題もなくカバンを開けられる!)」


 「ね、ねえ…隣、座っても、いい?」


 「うん、どうぞ。」


反射的に、優等生:山口洋介はスマイルで応えていた。
サッカー用語で自殺点、野球用語でボーンヘッド、マージャン用語でチョンボ。
それは云ってはいけない言葉だった。


 「(どうぞ、ぢゃねえエエぇエっっ!)」


 「(ゴ~~~~メェエンンンッ!)」


彼女…神恵美(じん めぐみ)は、山口の隣に座った。
優等生:山口洋介は普段から教室で食べているので、ここからの場所変更は不自然すぎる。
こうなれば、早く木ノ下が食べ終わり、自然に山口の背後に回り、カーテンになるしかない。
…だがしかしッ。 不幸とは積み重なる物である。


 「う、っむぐぅうぁ!?」


急いでサンドイッチを食いながらブロックサインを飛ばしたり、興奮すれば、こうなる。
すなわち、木ノ下はノドにサンドイッチを詰まらせ、そのまま保健室へ、だ。


 「(木ィ~ノ下ァアア~~ーーァ!)」


 「あ、あのう、山口さん、今日は…お弁当…。」


やばいマズイまずいヤバイやばいマズイまずいヤバイ
やばいマズイまずいヤバイやばいマズイまずいヤバイ
やばいマズイまずいヤバイやばいマズイまずいヤバイ


 「え、ええとね、その、あの、ねっ!」


いけない。 今までのブロックサインのせいで、山口に視線が集まりつつある。
今カバンを開けたら、見られる可能性が非常に高い。


 「じ、実は、私! 山口くんの分も…その、お弁当、作ってきたんです!」


…え?


 「そ、その、山口君って…。
  お弁当のときとそうじゃないときが…半分ずつぐらいだから…
  その…えっと…今日がお弁当だったら…その…あの、ね?」


 「大丈夫! ボク、今日はお弁当じゃないから!」


困っている相手を助けるためならば、山口洋介はウソを吐ける。
なぜならば、彼が優等生だから。


 「良かった! それじゃあ…!
  その、美味しいかは判らないけど、身体に悪いのは入ってないから!」


云いつつ、彼女はカバンから弁当箱を2つ取り出し、大きい方を洋介に渡した。
彼女のカバンから出てくるならば、必然的に洋介はカバンを開ける必要は無い。
安堵が、山口の心の中を占めていた。


 「美味しい! このお弁当、本当に美味しい! 神さん! 料理上手だね!」


 「あ、その…ジン…よりも、その恵美って…その、えっと…。」


 「恵美ちゃん、いい奥さんになるよ!」


恵美が興奮してさらにどもり、口下手になるが、それに気付かないほどそのお弁当は美味しかった、とさ。



放課後

昼食後は特にピンチもなく、全てが順調に続き、母さんの弁当も美味しくいただき、状況は万全。
そして訪れた放課後、事件はそこで発生した。


 「や、山口くん! あ…あとで、これ、読んでください!」


公舎の裏に2人っきりになるように呼び出し、女子がハートマークのシールで留っている便箋を男子に手渡す。
この行為が何を意味するか、それはただひとつ!


手 紙 を 受 け 取 り 鞄 を 開 け る !


そう、ここまで来れば山口洋介の人生で初の愛の告白だとか、
なんでこんなカワイイコが自分に告白するとか、実は男だったとか、実はイタズラだったとか!
そんな瑣末な考察はどうでもいい! だが、問題は『あとで読んでください』、この一言である。


 「あ、あの…受け取って…もらえ…ない、かナぁ?」


 「いいえ、ありがとう。 あとで読ませてもらうね。」


例によって、優等生の条件反射だった
――断れよボクー! ボクのバカぁああああ!――
そんな後悔が洋介の中で響くが、後悔先に立たずだ、行くしかない。


 「あ、ありがとう。」


受け取った。 これをどうする!?
制服のポケット…無理だ! 手紙がシワクチャになる!
手に持ってこのまま学校まで…恵美ちゃんの手紙がサラシモノじゃないか!
ズボンのジッパーを開けて、そこに…変態かボクはッ!

洋介の心の中で、様々な案が出るが、どれも不可能な案ばかり。 どうする、どうする。


 「あ、あのぉ…?」


ずっと手に持っている状態では、恵美ちゃんに気を遣わせてしまう。
早く、早く、何か案を出さなくては…。


 「おお! 居た居た! 洋介ーッ!」


助け舟、来る。
サンドイッチで撃墜された男、親友:木ノ下だ。


 「洋介ー! シャーペン、返すぜー!」


云いながら、恵美と洋介の間に割ってはいる木ノ下。
そして、恵美から死角になる位置で手早く洋介のカバンを開け、オトナの雑誌を洋介の学ランの中にねじ込んだ。


 「ああ、ああ、うん、ありがとう。」


 「え、って、山口くん、なんで…泣いてるの?」


 「ゴメン…ちょっと…感動しちゃって…。」


絶望的状況からの、友人の機転。
絶望が希望に変わった瞬間、人間は涙する。


 「本当に、本当にありがとう!」


心から感謝しつつ、洋介は、木ノ下によって、オトナの雑誌の無くなったカバンにシャーペンと手紙を入れた。


 「…明日、明日、絶対に返事するから!」



帰路


カバンの中だとリスクがあるということで、服の中に入れたまま優等生:山口洋介は歩いた。
途中、何度と無く危機が襲ってきた。 だがそれを突破し、洋介は帰ってきた。
遥かなる旅路、さらば友よ――なんというか、エジプトまで行って先祖代々の宿敵の吸血鬼を倒したような爽快感が、洋介を包んだ。


 「ただい――」


気を抜いた一瞬、オトナの雑誌が洋介の腹からズレた。
戻すべく体勢を崩した刹那、足元に置いてあった分別前のアキカンに足をとられた。


 「ま゛ッ!?」


転んで滑って、スイカの入ったバケツにツッコみ、ズブ濡れになりつつ、洋介は意識を失った。
このあと、洋介の母が気絶した息子を病院に連れて行き、
濡れた服を脱がせ、医者や看護婦がオトナな雑誌を腹に仕込んだ洋介を見ることとなる。






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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

こんばんは、遠野です。
先日ブログの方に来ていただいたので、
ご挨拶に来ました。

文芸部毒舌畑の出身ですので、
自分の書いた小説にはうるさいですが、
人様のブログでは大人しい方ですよ。

まぁ、それはさておき。
思春期の男子って感じで反応が面白かったです。
山口君のおかしい優等生っぷりとか。

No title

おおう、これはご丁寧にどうも。
俺は独学オンリーの文章書きですが、
毒舌は自分を育てるのに良いんで、むしろ歓迎。
ご自由に叩いてくれてもOKです。


感想どうもです。
この作品は深いテーマとかもないので、
『面白かった』はストレートに嬉しいですわ。
プロフィール

84g

Author:84g
ママチャリ日本一周するために仕事を辞める変人。
特撮・古マンガ好きの若いのに懐古という変人です。

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